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ボッティチェリの名作「春(LA PRIMAVERA=ラ・プリマヴェーラ)」の謎に挑戦するサイトです。
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(1)「死」に関係するふたりの登場人物(下)
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■《春》とよく似た「詩」の存在
画面左端にいる男性の足元をよく見ると、靴に翼のようなものが付いています。この特徴のある靴から、この神様はヘルメス(メルクリウス)であると言われています。
さてこのヘルメスですが、《春》の他の登場人物とは異なる、ある特徴を持ちます。そしてその特徴が《春》の「謎」を解くひとつのカギになっていると思われるのです。まずはその話から始めましょう。
ボッティチェリと同時代の詩人にアンジェロ・ポリツィアーノ(Angelo Poliziano)という人がいます。ポリツィアーノは、メディチ家のプラトン・アカデミーの中心人物の一人で、ボッティチェリとは交流があったそうです。
ポリツィアーノが書いた『ジュリアーノ・デ・メディチの馬上槍試合(ジョストラ)のための八行連詩』には《春》に登場する神々と同じ神々が登場します。登場人物だけでなく、その描写する内容が《春》に描かれた世界と非常に似ていることから、《春》はこの詩に構想を得たといわれています。
[ご参考に]
・・・「プラトン・アカデミー」の詩人ポリツィアーノが書いた「ラ・ジォストゥラ」のなかに「ヴィーナスの王国」という次のような詩がある。この詩は、1475年にサンタ・クローチェ広場で挙行されたメディチ家主宰の大イベント「馬上槍試合(ジォストゥラ)」の主人公ジュリアーノ・デ・メディチとその美貌の恋人シモネッタ・ヴェスプッチに捧げられている。
「プリマヴェーラ」はこのような知的雰囲気のなかで「ヴィーナスの王国」から着想して描かれた、というのが最も有力な説となっている。
アモル(キューピッド)は首尾よく仕返しをするや、
喜びいさんで闇の空をひとっ飛び、
小さな兄弟たちの待つ
母の領国(ヴィーナスの王国)にはや来たれり。
そこで三美神(グラツィア)が楽しげに集い、
美神(ベルタ)は髪を花冠で飾る。
好色な西風(ゼフィロ)の神は花の女神(フローラ)のあとを追い、
緑なす草は花咲きみだれる。
……陽気な春の女神(プリマヴェーラ)も欠けていない。
彼女は金髪と縮れ毛をそよ風になびかせ、
無数の花々で小さな花冠を結ぶ。
アモルたちの母、美しきヴィーナスは
その一団と子供たちに囲まれている。
西風(ゼフィロ)の神は草原を露でぬらし、
数限りない甘美な香りをまき散らす。
いたるところに飛び交い、田野を
薔薇、百合、菫、などの花々でおおう。
白、空色、淡黄、紅色、
草原は花々の美しさで驚くばかり
(森田義之訳)
このように「プリマヴェーラ」を見ていくと、ポリツィアーノの詩の情景とぴったり重なることがわかる。
(『春の祭典・初期ルネッサンスII』講談社)
■追加された神〜冥界の案内人ヘルメス
この詩に描かれている情景と、《春》に描かれている情景は、多くの共通点があります。しかし《春》には、この詩に登場しない神が描かれています。それが画面左端に立つヘルメスなのです。
ヘルメスは、旅人・泥棒・商業・羊飼いの守護神であり、韋駄天の脚を持つため、天界と地上を行き来する神々の伝令役を担うとともに、死者の魂を冥界に導く「魂の案内役(プシュコポンポス)」としての一面も持ちます。
ボッティチェリはポリツィアーノの詩を参考にしながら、ヘルメスという独自の登場人物を加えて、《春》という作品を創作しました。ボッティチェリはポリツィアーノの詩の登場人物だけでは、《春》のテーマを描けなかったのでしょう。
ヘルメスは2匹の蛇が絡みついた「カドゥケウス(Caduceus)の杖」を持つと言われています。(※カドゥケウスはラテン語。ほかにケリュケイオン、ケーリュケイオン、Κηρ?κειον, Kerykeion)
この杖を持つものは「伝令」の役割を担うことを象徴するようです。古代ギリシアでは戦場でこの杖を模したものを持つ伝令は、無事に通行ができたという話がありますので、通行証のような意味も持つのでしょうか。
ボッティチェリは、ポリツィアーノの詩には描かれていないヘルメスを登場させ、「カドゥケウスの杖」を振り上げるポーズをとらせました。そこには、どのような意図があったのでしょうか。ヘルメスという神様の存在に、ボッティチェリは何を託したのでしょうか。
■ヘルメスのポーズは何を意味するか
ロナルド・ライトボーンは『ボッティチェリ』で、ヘルメスのこのポーズを「庭園に入ってこようとする細くたなびく灰色の雲をカドゥケウス(伝令杖)で押し止めている」と説明しており、これが一般的な解釈になっています。
《春》の全体のバランスを見た時、ヘルメスの立ち位置がえらく左端の狭い所に寄っているのが非常に気になります。そしてこの雲の部分ですが、なんとも中途半端な印象を受けます。
ライトボーンの解釈の「灰色の雲」とは、この庭に侵入すべきものではないという意味を持つものでしょう。それをヘルメスが「押し止めている」、すなわち阻止しているというのでしょうが、腰に手をあてたこのポーズからは、そういった重要な任務を行っているようには思えません。
「カドゥケウスの杖」は伝令の象徴という意味と聞きますが、「雲を押し止める」といった目的に使うことなんてあるのでしょうか?
既存の説にはとらわれず、この部分だけをじっくり見てみることにしましょう。杖を持つ手の力の入り具合や表情から、私には「雲のように見えるものに棒で穴をあけ、その先をじっと見つめている」ように見えます。
そしてこの人物が「冥界への案内人ヘルメス」であり、手に持つ棒が通行証であるとするならば、雲の合間からヘルメスがじっと見つめてている世界は、いったいどこなのでしょうか。皆さんも一緒に想像してみてください。
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■《春》に描き込まれた様々な「死」
「結婚を祝って描かれた絵」とか、「神々の庭園の永遠の春を表す絵」であると言われている《春》ですが、ボッティチェリはゼピュロスとヘルメスという、冥界に非常に関わりの深い神を登場させました。そして、《春》に描かれた「死」の象徴は、まだまだ他にもあります。
ボッティチェリは、ルネサンスの画家のなかで、画面に写実的な植物を描き込んだ第一人者と言われています。《春》には500以上もの植物が描かれているそうです。次項のテーマは、描かれた植物に秘められた「死」についてです。
●この章の主な参考文献・参考サイト
『ボッティチェリ』 ロナルド・ライトボーン 西村書店
『NHK世界美術館紀行3』 日本放送出版協会
Thais -Analisi di Capolavoro Botticelli "La Primavera" http://www.thais.it/speciali/Primavera/analisi/analisi1.htm
※20008.06.09一部改訂
※20008.05.27
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禁無断複製
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